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「物裏の王」

彼は物陰に住んでいる王様

彼はモイズスお爺さんの靴箱の裏に住んでいる

ミノムシのコートを羽織り、頭にはカゲボウシを編んだ王冠をかぶっている

彼が統べるのは「隠蔽」と「秘密」

彼はいたずらが大好きで時折モイズスお爺さんの仕事道具である大工道具を隠したり、

モイズスお爺さんの記憶を隠してしまう。

ある時も、釘を取りに倉庫まで歩いてやってきたのだが扉を開けたトタンに何をしていたか忘れてしまった

彼の名前は「物裏の王」

ずっとモイズスお爺さんの靴箱の裏に住んでいる。

彼はこのうちが大好きだ



モイズスじいさんには孫娘がいたが名をロウラと言った。

ロウラはある夏の暑い日、恋をした。

同じ学校の先輩だった、

その学園の理事の息子と言う、身分はずいぶん違ったがとても仲が良かった。

その名をロイといった

ロイはスポーツの部活に所属しており、誰からも好まれる好青年だった

ロウラがロイに告白をしたのは夏祭りの夜だった。

返事はNOだった

ロイがロウラを嫌っていたわけではなかった

ただ、ロイには姉がいた

その名をミリアといった

ミリアは自分の弟を非常に大事にしており、誰にも弟を渡したくなかった。

ミリアはロウラのあることない事をロイに言いふらし、

結果、ロイの心はロウラから離れていった。



ロウラは泣いた。

一晩泣き、三日三晩泣き、一ヶ月も泣いた。

モイズスじいさんはホトホト困り果てていた。

孫娘に笑顔を取り戻して欲しい

モイズスじいさんは願った

一晩願い、三日三晩願い、一ヶ月も願い続けた。

それでも、ロウラは泣き止まない。

ある時、モイズスじいさんはポツリとこぼした。

「もしかしたら、物陰の王が孫娘の笑顔を隠したのではないかと」

その晩、モイズスじいさんの夢に立派な角の生えた獏の夢を見た

その獏はこう告げる

「この家は居心地がいい、それがどうだ、最近はこの家から活気が無くなり、その原因がが俺のせいにされている」

モイズスじいさんはこう言った

「お前のせいでないならば娘に笑顔を返せ」と

しかし、

「それは出来ない」

獏は首を横に振った。

モイズスじいさんは悩んだ

「お前の力をもってしてもだめなのかと」

モイズスじいさんは深いため息をついた。

獏は言った

「それは俺をバカにしているのか」と

そして獏はこう続けた

「彼女に笑顔を返す事は出来ないが、彼女の泣き顔を隠す事は出来る」



次の日、モイズスじいさんが目を覚ますと、

そこにはせっせと朝ごはんを用意するロウラの姿があった

彼女は昨日までのことなどすっかり忘れたかのように、太陽よりもまぶしい笑顔で

「おはよう、おじい様」

そう告げた

おぉ、なんと言う奇跡だろう

昨日の夢の獏は神だったのだろうか

モイズスじいさんは夢の奇跡に感謝した



しかし、学校から帰ってきた彼女の表情は陰鬱だった。

1ヶ月ぶりに登校してきたロウラは太陽よりも明るい笑顔をしていた。

そんな彼女は男子全員の注目の的だった。

もちろんロイもそのうちの1人だった。

そんな彼の表情をミリアは見てしまった。

ミリアは嫉妬した。



その日の放課後、ロウラはミリアに呼び出される。

しかし、ロウラは昨日までの全てを忘れている。

ロウラはある一言を言った

「貴女誰?」

その一言で充分だった。

自尊心の高い彼女の心はその一言でズタズタに引き裂かれた。

ミリアは取り巻きを呼ぶ

後は御想像にお任せしよう



ロウラはズタズタになって帰ってきた。

その顔には何の表情も浮かべなかった。

モイズスじいさんは思った

昨日の獏がすべての感情を持って行ったのではないかと



その日の晩、また獏が現れる

「私は負の感情を奪っただけだ、娘が感情を浮かべないのは、負の感情の浮かべ方を忘れただけだ」

モイズスじいさんはこう言った

「では、彼女が笑顔しか浮かべないような世界にしてくれと」



次の日、モイズスじいさんは騒音で目が覚めた。

その日、町中がパニックだった



「号外だぁ、号外だぁ、理事長の娘ミリアが失踪!!!

その取り巻きたちもこぞっていなくなったよう!!!!

この顔を見たら警察に連絡をくれェ!!!!号外だ…」



じいさんは何がなんだかわからなかった

しかし、意味はすぐにわかった

ロウラが笑みを浮かべていたからだ

あぁ、孫娘から笑顔を奪ったのはやつらか



それからしばらく、平和は続いた。

しかし、突如としてそれは訪れた



騒音でモイズスは目を覚ます。

そこには記者が大勢いた

どうやら、ミリア達の失踪事件の犯人は孫娘ではないか

そう記者たちは口々に言っている



モイズスは頭を抱えた

何故こういうことになるんだと

そして一言つぶやいた

「あいつがわるいんだ」と



また、夢に獏が出てくる

「今度は何だ、私はお前らが望むとおりの事をしたぞ」

モイズスは反論する

「お前がもっとしっかり、全てを隠してくれればこんな事にならずにすんだのに」

獏は鼻息を荒げた

「わかった、今度こそ完璧に隠してやろう、しかし、これで最後だ、この後お前がどうなろうと知ったことではない」



モイズスは…ゆっくりと目を開ける

そこは、真っ白だった

どこに幾ら歩こうと見渡す限りの白



その後、モイズス一家はその家から姿を消した

孫娘のロウラは居なくなり、モイズスは死んでしまった。



この町で起きた事件は「神隠し事件」と報道され

新聞にはこう記載される。

「ロウラは物裏の王の国に亡命し、モイズスは目の覚まし方を忘れてしまったのだ」と
Clover Room


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